2023年10月27日

100の野草を常食する「吃草の民」アミ族の暮らしに密着してきた

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 16の原住民族のひとつ、アミ族は「吃草の民」と呼ばれていて、300種類の植物を使い分け、うち100種類を常用するといわれています。そんなアミ族の暮らしに3日間密着してきました。

棘のある植物には味がある

初日から、着いていきなり採集へ。12種類の植物を採集し、サウナの準備と、ご飯の準備。ランチが終わったら、また次の日の分の採集に出かける。1日2 回の採集!さすがは「吃草の民」と呼ばれるだけあります。

湿地で取れるもの、高原で取れるもの、山中に入るもの、それぞれ植生が異なるので、あちこち入っていく! 次々に摘んでいくので、メモを取るのに必死でした。

とにかく、印象に残ったのは、「棘のある植物には強い芳香と味わいがある」 ということでした。

棘のある野生アマランサス、刺葱の葉、「トウ」の木の幹、気が遠くなるような細かい棘を一枚一枚こそげとり、食べるのだ。つくしの袴取りの比ではないんです。

棘のある野生のアマランサス
黄藤。この幹の棘をひたすら削って使う! 

なぜ、アミ族は、こんなに大変な思いをして、棘をひたすら抜くのか? 棘のない野草だってモリモリあるのに。

「だって、これが美味しいから。」

帰ってきた答えは実にシンプルでした。

まるで、登山家が山に登る理由が、「そこに山があるから」 というように。美味しいから食べる。食べるためにトゲを抜く、ただそれだけのことだったんです。でもそれが、めちゃくちゃ大変。

美味しいものを食べるには、頑張らないといけないんですね。そして、一人だと気が遠のきますが、みんなでやるから良いのかもしれません。

みんなでおしゃべりしながら刺抜き

東南アジアの蒸し風呂文化圏


台湾には温泉はありますが、サウナというと、西洋のサウナか、韓国のチムジルバン。中華圏の文化とはまた違った蒸し風呂 (スチームサウナ) の文化がアミ族に受け継がれていました。これが、タイのテントサウナにとってもよく似ているのです。

アジアにはいわゆる北欧系のドライサウナとは違った、蒸し風呂のサウナ文化圏があります。水が貴重で、蒸し暑い熱帯諸国ならではのサウナで、タイ、カンボジア、ミャンマー、ラオスあたりに広がっています。

台湾は、どちかと言えば温泉文化圏で、湯に浸かることはあっても、サウナはないと思っていたのですが、原住民たちは蒸気蒸しをしていたのでした。風邪引いたときや、体調がすぐれないときに入るそうですが、12種類の野草を摘んできて大鍋でことこと炊くところから始まります。

村のお母さんによると、炭火でじわじわ炊くことが重要なのだとか!
実際体験してみると、桶1杯のお湯なのに、ほかほか、ずーっと熱が冷めません。1時間以上入っていたでしょうか。体の内側にじんわりと広がり、これがめちゃくちゃ心地よくて、すやすやと、ほぼ全員まどろみの境地にいました。子供が風邪をひいた時につくる母の滋味を感じます。

自家採集してきた12種類の薬草
使う薬草の効能を解説してくれる村のお母さん
心地良さすぎてすやすや〜〜

内服薬と外用薬にみる原住民の民間植物療法


アミ族には、母から子へ、父から息子へ伝えられる知識の伝承システムが社会制度の中に組み込まれていました。その知恵の中には、野草から薬をつくることも含まれています。この村では、その知恵を、他の部族たちにも広く伝え、残していこうと、おばあたちが先生となり、ときどき教室を開かれています。

テキストには、伝統的な植物採集や、サウナの作り方、内服薬の作り方、外用薬の使い方などが記されていました。内容は、中華圏の中医学とはまた違い、タイの伝統医学にも通じるところがあります。これだけの知識が受け継がれていることに驚きます。

参加者の中に、ちょうど虫に刺された人がいたので、取ってきた植物を塗ってもらっていました。ほんとにすぐに痒みがひいたそうです^^

野草湿布の使い方を説明

女性は野草採集、男性は狩猟へ:母系社会と階級制度によって受け継がれる伝統的知識


アミ族は母系社会。つまりは入り婿さんで、旦那は奥さんの家に入り、女性のために獲物を捕まえてくるのだとか。

アミ族の村社会は階級制度があって、男性は13歳になると1階級のクラスに属し、3年ごとに昇級、20階級まであり、それぞれ階級ごとに村での役割や仕事内容や服装まで定められています。服装で階級がわかる、まるで軍隊のような組織。

魚毒を集め、魚を取り、檳榔の木に登って葉っぱを採集し器を作り、肉を保存し、酒を醸し、薬を作り、家を建てる。その知恵は、階級ごとにしっかり伝達され、受け継がれていく。階級組織に属している13歳以上のアミ族はあまねく伝えられる仕組みが社会システムに組み込まれているのでした。

アミ族の家には通常、二つの台所が存在します。一つは家の内部にあり、女性が主に使う場所。もう一つは別棟の小屋で、「男人厨房」と呼ばれています。この場所は主に狩猟や釣りで捕れた獣や魚を処理するために使われ、その料理は女性に贈られるという習慣があります。

実際に「男人厨房」を体験してきました。 まず、厨房を案内してもらい、「ちょっと、まってて」とおじさんに言われて、厨房を見ているほんの少しの間に、犬のようなサイズの子鹿に似た「キョン」という獣のツガイを連れてきてしまいました。

その処理方法が実に印象的で、キョンの全身をガスバーナーで一気に焼き、毛を剥がす。そして、洗い桶でたわしで磨き上げ、丸焼きかと思いきや、大釜でぐつぐつ煮るところは、まさに「男の台所」。

出来上がった鍋は、脱毛しただけで、皮ごと煮るので、皮下脂肪たっぷり。これがまたぷるぷる!シンプルな塩味のみのスープはなんとも言えない滋味に満ちていました。

男人厨房は外の小屋に。このくらいの小屋はアミ族なら1日で建ててしまう!

おじい曰く、男性は女性に頭が上がらないのだそう。ただ、族長は男性で、ウチ(酒造りや料理、薬作り)とソト(狩猟、力仕事、ときに他の部族との戦争)、で役割分担されているので、ウチでは頭が上がらなくても、それなりにバランスが取れているのかもしれません。

キョンを茹でているところ

檳榔の葉鞘で火鍋をつくる

アミ族の野草料理はとてもバラエティに富んでいて楽しいのですが、中でも、「十芯菜」とか、「八菜一湯」とよばれる、植物の幹(芯)など多くの野草を使った火鍋が面白いのです。もう、一つの鍋だけで10種類の野草を使うわけですから、100種類の野草を常食するというのは、伊達ではないわけです。

まず、木の葉で鍋を作るところから始まります

木の葉で鍋?」と思われるかもしれませんが、これが、案外とってもしっかりした鍋なんですよ。

皮をなめすように、木の皮を水に浸し、柔らかくします。そして、竹串で刺し、ほんの数分で鍋が出来上がります。

檳榔の葉鞘で鍋を作っているところ。竹串ももちろんお手製!

アミ族は、椰子の木🌴のような細い幹を猿のように登ってとってくるのですが、木の皮って、自分で取らないとどこにも売ってないんですよ!まず、よじ登れないと鍋がつくれない!

この鍋に、あつあつの焼石をじゅわーっと入れ、火鍋を作ります。

焼き石に海鮮、たっぷりの野草

そしてこの皮、水につけるとなめし皮のように折りたためるので、お弁当包みにもなるんです!

檳榔の葉鞘でつくる弁当包み

檳榔の葉鞘で包まれたお弁当

エッジ(周辺)にこそ最先端がある


タイには、アーユルヴェーダと中医学の境目の植物療法があります。
アミ族にもまた、中医学ではない植物療法があり、タイや東南アジアの伝統療法に共通する植物も見られます。本来、伝統医学や民族の知恵に境目はなく、人伝に伝承されてきたもの。

「中医学」「アーユルヴェーダ」とカテゴライズされ、教科書化され、知識として体系化されると、そこから外れてしまう考え方が淘汰されてしまいます。

わたしはどちらかというと、大国に取り込まれなかった今にも消えつつある境目の知恵に興味があって山岳民族の植物利用を調べています。

インドや中国のような大国の体系に組み込まれなかった知恵は、取りこぼされるように周辺に残されてきたのでした。捨てられていってしまっているものの中に、また、新しい発見がある。わたしにとって、エッジにある未知は、知られざる知恵が豊富に学べる最先端なのでした。

今日も新たな未知を探し求め、周辺を歩く。

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台湾通信 No.2:植物を探求する旅
~フォルモサ・ボタニカ ─ 台湾の森と植物のある暮らし~
全32ページ
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もくじ
1. 台湾の歴史と植物文化
・青草と生薬
・台湾の地理
・台湾湯めぐり
・ローカル市場
2. 植物と人間の関係性
・食用
・儀礼・儀式
・医療用
・染色工芸
3. 16の原住民紹介
4. エリア紹介
・台北エリア:薬草街と迪化街
・コラム:台湾の青草と薬膳食材
・台中エリア:中医学とオーガニックを学ぶ
・コラム:客家の植物利用を学ぶ旅
・台南エリア:植物のアトリエを体験
・屏東エリア:ルカイ族の石板屋にステイ
・花蓮・台東エリア:アミ族の暮らしに迫る
5. 原住民の植物利用
・食べられる植物
・アミ族の薬草学
・草麹づくり
・染色織物
・工芸植物
6. レシピ
・アミ族のレシピ
・タイヤル族のレシピ

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