2016年12月19日
発酵する食卓【納豆ラボ編】納豆とは何かを考える晩餐
種採りと発酵
在来種の種採りと発酵食の種菌のサイクルを考えてみると、とても面白いつながりが見えて来ます。菌や植物は一生を終えるとき種や胞子を残し、変異しつつも命をつないでいきます。
醤油や味噌、酒、みりん、日本食の基本調味料をつくる麹菌Aspergillus oryzae、ヨーグルトや漬け物に欠かせない乳酸菌、テンペや納豆などの発酵食をつくる枯草菌。それから、チーズの青カビPenicillium、世界各地でそれぞれの風土にあった菌が長い年月をかけて選抜され、順化(ドメスティケーション)させてきました。
パン(コムギ)にあうのはワインとチーズ、そして、ごはん(コメ)に合うのは納豆と漬け物と酒。
主食となる作物とその土地にある菌の組み合わせが食文化に大きな影響を与えていることがわかります。
作物の種継ぎと、発酵食の菌継ぎがつながってきました。
発酵する食卓「納豆ラボ編」
有志ではじめた発酵ラボ。素材と知恵を持ち寄ってテーマごとに発酵食の多様性を実験していきます。今回のテーマは「納豆」。各地から集まった豆や穀物を使って納豆をつくりました。
材料には山形在来、津久井在来、ミャンマーの地豆、ピーナツ、ぎんなん、たかきび、そして、枯草菌を採種する植物には、3種類のシダ、稲藁、アオバコムギ、笹、マコモ、バナナの葉などが集まりました。
大豆、ミャンマー豆、ピーナツ、ぎんなん、たかきび |
左からマコモ、笹、ウラジロ、藁、バナナ、シダ |
納豆菌とは?
納豆といえば、藁と大豆ですが、そもそも、納豆菌はいろんな植物にいて、世界では多種多様な植物が利用されています。
日本では、江戸時代後期には自家用に作られていた納豆の生産業者が出現したと言われていますが、納豆菌が培養されはじめたのは明治時代以降のことだそうです。市販の納豆にうっすら白い膜ができているのは、納豆菌のコロニーです。
納豆の分類
アジアの納豆の多くは、粒のままではなく、挽き割りにしてせんべい状にのばしたり、味噌玉のように丸めたりして天日乾燥させるところも多いようです。
そして、豆以外にも、唐辛子やご当地スパイスを加える納豆も。
多様な納豆の形の中でも、糸ひき納豆は独特のようです。
<豆の形態>
①粒状納豆 →乾燥、糸引き
②干し納豆
③挽き割り →せんべい状納豆(トゥアナオ)・味噌状納豆
<菌>
①納豆菌 →糸ひき納豆・五斗納豆
②麹菌 →塩辛納豆(豆豉)、唐納豆(大徳寺納豆、浜納豆)
③テンペ菌
<スターター>
藁、イチジク、シダ、チーク、バナナ
<地理分布>
ラオス、タイ・・・トゥアナオ
ミャンマー・・・ペーボゥ
インド・・・ザーチェイ、フクマタ、アクニ、ベカン、リビジッペン、グレップチュール、キネマ
ブータン・・・リビイッパ、キネマ
ネパール・・・キネマ
中国・・・豆豉(乾燥塩辛納豆)
韓国・・・清麹醤
韓国の納豆の語源は、清国から渡って来たという説があります。日本でも、大徳寺納豆や浜納豆のような、糸をひかない乾燥納豆のことを「唐納豆」ということから、中国から韓国経由でわたってきたのでしょうか。
<スターター>
藁、イチジク、シダ、チーク、バナナ
<地理分布>
ラオス、タイ・・・トゥアナオ
ミャンマー・・・ペーボゥ
インド・・・ザーチェイ、フクマタ、アクニ、ベカン、リビジッペン、グレップチュール、キネマ
ブータン・・・リビイッパ、キネマ
ネパール・・・キネマ
中国・・・豆豉(乾燥塩辛納豆)
韓国・・・清麹醤
韓国の納豆の語源は、清国から渡って来たという説があります。日本でも、大徳寺納豆や浜納豆のような、糸をひかない乾燥納豆のことを「唐納豆」ということから、中国から韓国経由でわたってきたのでしょうか。
納豆の作り方
<用意するもの>
納豆の原料はダイズだけ。
新聞紙
藁(笹、マコモ、イチジクの葉、ハーブ、シダなど)
ほっかいろ、または、湯たんぽ
保温バッグ
① 一晩浸水する(2倍の重量になったらOK)
② ダイズを親指でつぶせるくらいまで煮る(圧力鍋で20分程度)
藁や植物を使う場合は、煮沸しておく。
③ 納豆菌(市販の納豆でもOK)とまぜる
④ 約40度で24時間保温する(ヨーグルティア、カイロ、湯たんぽ、こたつ、電気毛布など)
⑤ 保温容器から出して一晩冷蔵庫で寝かせてから食べた方がおいしい
<ポイント>
※藁づとの周りを新聞紙で包む。タッパーに入れる場合は空気穴を開けておく。
※納豆菌はタンパク質が好き。タンパク質を食べてネバネバ成分を作り出す温度が40度前後。
納豆の風味と枯草菌
納豆菌がタンパク質を食べると、グルタミン酸と糖ができ、その2つがくっついてネバネバのムチンができます。枯草菌は100度でも生きていますが、40度前後がいちばんムチンが活性化する温度なのだそうです。
食べ比べをしてみたところ、豆の品種によっても風味がかわりますが、どの植物を使うかによって粘りと香りが変わってくるようです。
タンパク質を多く含む食物であれば、大豆だけでなく、ピーナツ、小豆や空豆、コムギ、ぎんなんでもいけるようです。タンパク質のすくないタカキビや玄米だと、あまり納豆化しませんでした。ピーナツは表面はねばねばしてますが、ある程度柔らかくならないと菌糸がはいらないようで、内部の堅いピーナツでは、中まで納豆化しないようです。
個人的には藁の香りが好きなのですが、アジアの民族の中には、シダが一番美味しいとする食文化もあります。
①バナナ
風味★★★粘り★
バナナの葉の上から新聞紙をくるんでいましたが、湿度がたりず、乾燥気味になってしまい、粘りは低かったですが、これはこれでおいしい。
バナナ×津久井在来大豆 |
風味★粘り★★★
個性的な風味。植物によって風味がこれほど個性的にあらわれるとは。
シダ×ミックスビーンズ |
③笹
風味★粘り★★★
ミャンマー豆は、大豆に比べて粘りにくいようでしたが、笹とのコンビネーションはばっちり。
笹×ミャンマー豆 |
④シダ2
風味★★粘り★★★
ミャンマー豆にくらべ、大豆の方が糸をひきやすいようです。
粘りは笹のつぎ
⑤シダ3
風味★★粘り★
半分が穀物だったせいか粘りはあまりなく。
シダの独特の風味がひろがります。
⑥稲藁
風味★★★粘り★★
日本人のDNAでしょうか。やはり風味は藁が一番よいように思います。
でも、シダとバナナの香りも好きでした。
藁×ミックスビーンズ |
⑦マコモ
風味★★粘り★
マコモは乾燥しすぎたためか、あまりうまくできませんでした。
結論まとめ
納豆ラボメンバーの結論。
味は豆
香りは草
粘りは人の心
何だか詩のようですがその心は、
どの植物で枯草菌を採種するかによって香りと粘りが変わってくるのですが、味の違いはそれほど感じませんでした。むしろ味の違いは素材によるところが大きく、タンパク質の多い大豆、でんぷん質の多い小豆、堅いピーナツでは食感やコクが違って来ます。
香りはバナナの葉、藁、笹、シダ、使う植物によってダイレクトに違いが現れます。民族によって好みの香りが違うのでしょう。
そして、難しいのが粘り具合。これには、豆の煮方(堅い豆はねばりにくく、やわらかい豆はねばりやすい)、それから、植物の乾燥具合(からからに乾燥してたマコモは納豆もかちかちに)、包み方も関係して来ます。タッパにいれるか、新聞紙で包むか、草や藁で包むかによって湿度がかわり、湿度が高いほど粘りがでます。
アジアの納豆の中には、ねばねばの挽き割り納豆もあれば、からっとした塩辛納豆もあります。粘りは、作り手が納豆菌の培養中、どんな管理をしているかに左右されるように思います。
逆に言うと、好みの粘りに合わせて管理すれば、お好みの納豆ができあがるということです。
発酵する食卓
発酵食の晩餐会には、多種多様な発酵食や保存食がずらりと並び、発酵ドリンクも甘酒2種類、どぶろく、ビール、シードル、ワインが集まりました。豆腐よう、へしこ、ゆずこしょう、かんずり、梅干し、漬け物・・・日本の保存食はなんと酒にあうものばかりか!
ミャンマーや中国の豆豉、四国の寺に受け継がれる乾燥納豆など世界の納豆食べ比べも。
好きな香りの種菌を培養すれば、好みの納豆が常時つくれるようになるかもしれません。
どの組み合わせがすきですか?ぜひ、いろいろ実験してみてください。
<オススメ参考文献>
横山智「納豆の起源」NHKブックス
高野 秀行「謎のアジア納豆: そして帰ってきた〈日本納豆〉 」
登録:
コメントの投稿
(
Atom
)
0 件のコメント :
コメントを投稿