2014年1月5日

ブータンの山村集落へ農と暮らしをたずねて・・・(4)伝統医術を学んだ少女

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「チサト~!こっち、こっち!これは、牛の胃薬につかう草、これは、マラリアのお薬、こっちは血止め草。私たちの家の庭には、いざというときに使えるお薬をたくさん植えてあるのよ。」

そこは、ブータン王国の東の果て、無医村の薬草ガーデン。
医者のいない村では、いざというときのために、薬になる植物が家の周りに植えられています。
そう、シャーマニズムが今に生きている―。



■伝統医術を学んだ少女、トゥルシ―との出会い

秘境ブータンでも、特に辺境の無医村の村に生まれたトゥルシーと出会ったのは、北インドのオーガニック農場、Navdanyaでした。

ブータン政府の国家100%オーガニック計画で、選ばれたモデル農家20名とともに、Dr.Vandana Shivaの研究農場で2週間ともにすごし、同じ年頃のトゥルシーとは仲良くなったのです。

「ブータンに来たら、ぜったい、Bantarに来てよ!」

そういってお別れしてから2ヶ月がたっていました。


ブータン東部のはしっこ、Bantarは、ブータンの中でも、さらに「特別入域許可書」を取得しないと入域できない辺境の地。

Bantarからさらに、東へ行くと、車道がなくなる。
歩いて3日かかるLauri地区には歩いてしかたどりつけない村が点在しているのです。

歩いてしか行けない農道を記した地図。雨季は冠水のため、道がわからなくなることもあるという。

■野生のゾウがでる無医村

「チサトはだめだ!とっても危険だから。ぼくたち政府の農業普及員も、銃を持った軍の護衛団と一緒にしか行動できない。野生のゾウやトラが出るからね。」

野生のゾウがいかに凶暴で、何人ゾウにやられてるか。
いかに、ゾウからのがれるか。
川に飛び込んではだめ、ゾウの方が泳ぎが早い。
木に登っても、なぎ倒される。
ゾウは突進力があるが、ジグザグに逃げれば助かる可能性がある。
生きることは、自然との闘いなのである。


そんな話を聞いてると、動物園のゾウしかみたことない私には、想像できない世界でした。

物資輸送のために軍で飼っているゾウ

そのジャングルを、3日間かけて歩く。
途中、ジャングルの中にある村で野営する。
Lauriまで行くのはあまりに危険、とのことであきらめました。



選挙が始まって延び延びになっていたBantarへの入域許可申請がようやく通り、
2か月後、いよいよトゥルシーの家にたどりつきました。

「チサト―!次はあっち!特別な庭があるから。それから、下の村には畑があるから見て行ってね」

その間、電話で何度もやりとりしていたトゥルシ―は、おおはしゃぎで庭を案内してくれたのです。
きっと、私の目も子供のように、トゥルシ―にまけないくらいキラキラしていたと思います。
もっと聞いていたい!全部知りたい!



なんと、トゥルシーの出身は、行くことをあきらめた3日歩かないとたどりつけないという村なのでした。

電気もなく、車道もない。病院も、スーパーもない。
食料も、医術も、ほぼ自給自足の閉ざされた村。

そこでは、薬草師やシャーマンがいて、病気になったとき、薬草の処方やまじないをしてくれる。そこで、トゥルシ―は、薬草を学んだといいます。



ヒルにやられて血だらけになっていた足を手際よく治療してもらいました。

日本では、川や池にいるイメージですが、舗装されてない道なき道を数10分も歩いていると、ジーンズの上から長靴をはいていようが、どこからともなく、そいつは入ってくるのです。

一緒に農村をまわってたカナダ人の研究者は、パンツの中に入ったヒルにお尻を吸われていたというから笑い話・・・いや、怖い話でした。

「牛の鼻からヒルが入ると、内臓の血を吸ってどんどん大きくなって、そして、牛が死んでしまうんだ。」

ヒルよ、なんと恐ろしい生き物・・・

ヒルにかまれた足の治療に使う薬草

■庭の薬箱

庭の薬草たちは、言われないとそれと気づかないほど、本当に何気なく生えている。
薬草師の村では、家庭菜園に加えて、いざというときのために薬になる植物が家の周りに植えられています。まさに、天然の薬箱なのでした。 

中でも、とりわけ重要視されているのが、万能薬とされるトゥルシ―。
日本でもハーブとして育てている人は多いですが、庭の中でもちょっと台座のような盛り上がったところに植えられたり、神棚に飾られたり、神聖なものと扱われています。

Trusi

これは、Lanilu ラニルー。日本でいうと、アカネ。
「茜色」というけど、ブータンでも髪染めや染色に使われる草。
Lanilu アカネ草

中国や東南アジアでもそうですが、赤が持つ意味は、祝いの色であったり、魔除けの色であったり、「火」「太陽」「血」の色を連想させるようです。
日本でも、赤いアズキや消し炭が邪気払いとして使われ、インドでは牛の角を赤く染めて魔除けにします。

ブータンでは、実態がよくわからないけど、村にはBoxiボキシーと呼ばれる魔物がいて、寝ている時にやってくると言い伝えられています。Laniluは、Boxiにかまれたときの治療につかうのだそうです。

狐につままれたようなお話ですが、本当にかまれたことがある、という老人は、朝起きたら黒い歯形がついていた話をしてくれました。

白髪のおしゃれ染めにも使うというアカネ草。



これは、カレーに入れるという野草。胃薬にも使われると言います。

Zala-mom-baaring (Crinum amoenum Rox)
used for making curry. It is good to treat gastric syndrome.
Leaves for syphilis, leprosy, skin diseases, fever, bowel complaints, rheumatism and nervoursness. Also used as insecticides.

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現地語(学名
村人の知識
専門家からの聞きとり
※英文は参考のため原文にしてます
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これはマラリアの治療薬。根をすりつぶして煎じて使う。
血圧を下げる効果も。
Rauwolfia serpentina (Rauwolfia serpentina)
grinded roots mixed with water is used for malaria treatment. Also, good for stomach ache
Sedative, hipnotic, reduces blood pressure
これは、Menkuと呼ばれる、牛の胃薬。
根っこをしぼって、液体を飲ませる。

Menku (Crinum amoenum Rox)
treatment for digestion problems of cattle.
Bulb used in rheumatism and leaf juice for ear ache purposes


これは、Lantana ランタナ。
すりつぶして、農薬の代わりに作物にまく。



納屋には、自家採種した種が保管されていました。

ぶんどう豆

とうもろこし畑の下には、豆や、じゃがいも、かぼちゃが地を這っています。
にわとりも放し飼い。


牛小屋の屋根でかぼちゃを収穫。
とってもエコです。


ブータンの大学には、医学部がありません。
医者になりたければ、インドに留学しないといけません。
ブータン人の医者は数少なく、私が滞在していた村でも、インド人の軍医しかいませんでした。

マラリアになったらどうすのか、狂犬病がでたら?
村人が、狂犬病で死んだ、毒蛇にかまれた、なんて噂もちらほら聞こえてくるので心配でした。

首都の大病院までバスで3日。
インド人の軍医がいる近くの町まで歩いて1日。
どう考えても、マラリアにかかってしまったら、歩いて町まで行けるはずがない。

あのマラリアの薬という植物の根っこは、青色の汁が出てたな、
それとなく、魔女の薬っぽいけど、本当に効くのかな。

生病老死も天の定めとするチベット仏教の考えでしょうか。
結局のところ、いくら考えたって、心配したって、結論は、
「所詮、なるようになる、なるようにしかならない」のである。


マラリア、狂犬病の区域に入りながら無医村の集落での滞在で、何とも知れない「鈍感力」がついた。「何が起きても、すべてをありのままに受け入れて生きよう」という気持ちになったのです。
それは、はたして、あきらめかもしれないし、 どうにもならない自然の理に対する信奉かもしれなかった。


(つづく・・・)
チベット医学の神様
首都ティンプーのメンツィーカンで処方された薬



※ブータンの手だねをたずねるシリーズでしたが、話が広くなってきたので「山村集落を訪ねて」にあらためました。

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