2013年12月28日

風位考と民族土壌学~風の名前、土の名前と民俗伝承~

1 件のコメント :
■風の名前
「ニシノハマ」

と、沖縄で言われても西へ行ってはいけない。
「ニシ」は北。西は「イル」と言うのだ。

民俗方位といって、地方によって、方角を表すコトバがあります。

東のことは、琉球では 「アガリ」。
春先に吹くやわらかい東風を「コチ」 といったりしますよね。

風の名前も、その民俗が何に 根差して生きているのかが現れています。

「ウミカラシ」が吹くと魚がとれなくなる。
雷鳴をともなう「ブリオロシ」「ブリオコシ」は、日本海側の冬に大漁の恵みをもたらす。


山の背からふく「ヤマセ」
南風を「マゼ」
山から吹き下ろす「爆ろ風(オロシ)」

夏の通り雨の後にふく風を「ハヤテ」
湿気た海風を「ジゲ」
丹後の初冬に強い風雨をともなった気候を「ウラニシ」


島国の日本では、漁労の民が微妙な風の変化を多様な言葉で言い表してきたのです。

一瞬、一瞬かわる天候を読む力、風の変化を敏感に察知する力。
それは、漁師ならではの力かもしれません。





 ■土の名前

一方で、農民に求められるのは、大地の変化を読む力。
次の夏に乾きがくるか、次の冬の降雪はどうだろう。
虫の動きや、鳥の鳴き声、植物をみて天候の変化を知る。

その日の天候を読む漁師と違い、農民は、比較的長いスパンでの予言が必要なのだ。


日本では、なぜかあまり研究されていませんが、農民による土の分類に関する民俗的知識を研究する民族土壌学 Ethnopedology という研究分野があります。

biodiversityバイオダイバーシティーが生物多様性があらわすとすれば、
pedodiversity ペドダイバーシティーは土壌の多様性をあらわす。
生物多様性に比べて非常に研究者が少ない分野なのだけど。

土に関する神話と土地利用。
農家は、土の違いをどう分類しているのか。
物理的違い?色の違い?育っている作物の違い?
それぞれ、どういう名前で呼んでいるのか。
ローカルな呼び方と、科学的な土壌分析結果の比較。
土の肥沃度をどう理解しているのか。
肥沃度を高めるために、どう行動しているのか。



熊本では、「畠」と「畑」を使い分けているのは前回書きましたが、
日の当たる土地を「ヒアテ」、日陰を「ヒゾイ」と呼んでいました。
 anthrosolsとは、 民俗が長年かけて作り上げてきた人口の土壌をいいます。

奇跡の土と呼ばれる南米のテラ・プレタ。
熱帯の蒸散の激しい土地では、赤土が多く、有機物もすぐに分解してしまうが、テラ・プレタは有機物が高い。長年炭を焼いてきたからではないかとか、いろいろと言われている土。


荒川の下流域に堆積したドロを長年畑に運んで体積してきた「ヤドロ」(氾濫土)。
これを頑張って畑に運んで、長年かけて「ドロツケ(客土)」してきた民がある。

こういうのを研究したら面白いんじゃないかと思うのだけど、「エスノペドロジー」でひいても日本の文献はさっぱりヒットしないのです。


風の名前、土の名前が、風土を作ってきたんじゃないかと思う。
「風位考」(柳田國男)はあるのだけど、「土位考」というのはなぜかない。
ってなわけで、だれか、土の名前を研究してほしいのだけど・・・^^


■ものの名前と民俗伝承


「山吹色」「浅葱色」「琥珀色」「茜色」
日本の伝統色の和名はとっても豊か。
それだけ豊かな自然が古来からあったということ。

 ちょうど、風の名前に多様性がある漁民のように。
呼び名が多いということは、
自然に根付いた暮らしをしてきたということ。


アフリカのとあるサバンナの村では、生えている草は、すべて「みどりのくさ」
ぜんぶおなじ。
呼び方に多様性がないのです。

緑豊かな日本では、「萌黄色」「若草色」 「青丹色」
これ、ぜんぶ緑なんですよね。


ものの名前は、自然をどう認識しているのかを示すもの。


ローカルな呼び名を調べていると本当に面白いです。


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1 件のコメント :

  1. 土位考、面白いね。自分の仕事に深く関係する分野だけに興味深く読ませてもらった。土の名前は地質学的>土壌学的>民俗学的の順番で条件設定が細かくなるとおもう。使いまわす前提となる学問的「必要」が違う(例えば時間軸だけでも地質学は100万年単位、土壌学は1万年単位、民俗学は100年?単位になる)からだけど、それがわかれば、なぜ「民族土壌学」という分野が無いに等しいか分かる。農民が書き手の50年以上前の文には土の名前、結構出てくるからそれらを土の視点で見れば土位考はできるね。今は時間ないからそこまでできないけど、印象として、土についても日本は多様性がかなりある方じゃないかなと思う。地理、気候が複雑だから当然と言えば当然だけれど。

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