2014年1月27日

ブータンの山村集落へ農と暮らしをたずねて・・・(6)幸せの国のブータン人は幸せか?

0 件のコメント :
ブータン有機農業調査で半年間滞在していた町、Deothangに新しく有機野菜専門のマーケットができたそうです。

困ったことに、地方の町は家庭で使う分だけしか生産しない自給的農家が多く、野菜が欲しいと思っても、なかなか手に入らなかったのです。 今住んでいる漁業の町、伊根町に魚屋さんがないのとおなじことですね。2年もたつとずいぶんかわっているのでしょう。

kuenel online(英語): Market shed for organic products


さて、ブータンで農村調査をすることになった経緯について前回書きました。

前回記事:ブータンの山村集落へ手種(てだね)をたずねて・・・(1)おばあちゃんの知恵を学ぶ農村調査



これまではブータンの日常について書いてきましたが、ちょっと調査のことにも触れておきたいなぁと思います。


■国土100%オーガニック計画


ブータンでは、GNH(国民葬幸福)を高める一つの政策目標として、「国土100%オーガニック計画」がはじまっています。


Jigmi Y. Thinley首相はいいます。

「有機農業は生きたGNH(Living GNH)である」

 以下、2010年のティンレイ首相による有機農業に関するスピーチの要約です。

"Going organic will empower farmers by reducing their dependence on foreign farm inputs, chemicals, and imported patented seeds, and by creating local seed sovereignty, and increasing reliance on local wisdom, traditional farming methods, and freely available local materials like manure, biomass, and leaf compost that fertilize and enrich the soil. Going organic will strengthen our culture and rural communities."

有機農業によって、外国からの化学肥料や種子の輸入に頼るのではなく、種子の自給を確立し、在来の知識や伝統農法、地域にある資源を有効に利用することができる。また、有機農業は、われわれの文化や農村コミュニティを強固なものにする。


GNH向上戦略の一環として有機農業を位置づける理由として以下のように指摘されています。
①人にも環境にも優しい
②生物多様性の保全
③持続可能な開発
④少量高品質の農産物の輸出による収入増
⑤コミュニティ性の維持

インドでは緑の革命以降、収量は増加したものの、農家は外部からの資材投入に依存するようになりました。肥料や農薬、種子を購入するために借金に苦しみ、自殺する農家が後をたたない。ブータンではインドにおける緑の革命が反面教師として示されています。

低投入型で環境負荷の少ない有機農業を推進すること、ブータン独自のクリーンなイメージを創出し、高品質な有機農産物を輸出していく、という戦略なのです。


というわけで、本当に有機農業がGNH向上に役立つのか。
指標を使って、実証しようというわけです。


それにしても、普及員の出張報告書に至るまで、政府の文書はほとんど英語で書かれてあるので、ブータンはとても調査しやすい国です。


■幸せを図るものさし、GNH(Gross National Happiness)

「農薬?使わないよ。虫を殺すのは罪になる。私たちは大地から食べ物を分けてもらっているんだから、虫にも半分わけてあげればいいんだ。」

「品種を変えたら収量が2倍になった。楽になったよ。これで今までの半分しか耕さなくていいのだから。」

ブータンで村落調査をしていると、よく聞く言葉でした。

「日本人は働き者だよね。なんでそんなに働くの?」
逆に、質問されるパターンも・・・vV

そう聞かれましても、答えに瀕する質問です。

頑張って働いて、お金を貯めてどうするのか?
アリとキリギリスで言うところの、日本人がありだとすれば、ブータン人はキリギリスです。
キリギリスは、働かず、冬が来て飢えて死んでしまうのだけど・・・
アリのように 働いて厳しい冬を生き延びるか、キリギリスのように人生を謳歌して終わるか・・・。


国勢調査でブータン人の幸福度は世界一。97%が幸せだと答えていると言われています。

忙しく働く日本人が不幸せで、のんびりすごすブータン人は幸せなのか?


「ブータンの生活どうだった?幸せな国だった?」
帰国して、いろんな人からよく聞かれましたねー。

こういう質問には、
「その人次第なんじゃない?」
と、返しています。

ちがう答えを期待していた人には、
なんだ、それだけ?つまんないの。と思われるかもしれませんが・・・


では、「あなたはしあわせですか?」
と聞かれたらどう答えますか?



東京大学社会心理学研究室(2010年)の調査によると、86.5%が「非常に幸せ」又は「やや幸せ」と答えたそうです。 
(Source:東京大学大学院人文社会系研究科社会心理学研究室&電通総研, 世界価値観調査2010, 2010年)


なんだ、日本とブータンはそんなに変わらないじゃないか。
と、思いませんか?


幸せか、不幸か、2択で聞かれると、「不幸だ」と答える人が多い国はよっぽど不幸なのかもしれないけど、どちらかといえば「幸せ」に〇するひとが多いのではないでしょうか。

二分論ではなく、幸せ度を点数で示した大阪大学社会経済研究所(2004年)の調査によると、アメリカでは8点が最多数の24%を占め、日本では、5点が25%、ブータンでも5点が36.8%で最多でした。ポジティブ思考か、マイナス思考か、国民性も影響するのだと思います。 
Source: 大阪大学社会経済研究所附属行動経済学研究センター, くらしの好みと満足度についてのアンケート, 2004年

これは、GNHの指標です。
  1. Psychological Well-being 心のゆとり
  2. Time Use 時間のゆとり
  3. Community Vitality    コミュニティの活力
  4. Culture 文化
  5. Health 健康
  6. Education 教育
  7. Environmental Diversity 環境
  8. Living Standard 生活水準
  9. Governance    ガバナンス


数値化して足していくのですが、この数値のとり方が、結果に大きく影響してきます。

どういうことかというと・・・


家庭・労働・環境・健康など40の指標を用いた幸福度の調査を行った法政大学(2011年)による、日本の都市別幸福度ランキング

1位    福井    7.23     
2位    富山    7.20     
3位    石川    6.90     
4位    鳥取    6.63     
5位    佐賀    6.55     
6位    熊本    6.55     
7位    長野    6.48     
8位    島根    6.35     
9位    三重    6.25     
10位    新潟    6.18     
38位    東京     5.38     
42位    京都    5.18     
47位    大阪    4.75    


過疎率の高い北陸・山陰の幸福度が高く、東京、大阪、京都など、都市部の幸福度は低くなっています。

日本海側に住む人は幸せで、東京に住む人は不幸なんでしょうか?

同じ状況は、ブータンの都市別の幸福度の比較調査でも明らかになっています。
 
ブータンの都市別幸福度ランキング(Center of Bhutan Studies , 2010年)
ハ 6.55
ガザ 6.42
ウォンディ 6.22
ブムタン 6.21
タシガン 6.15
ティンプー 6.14
プナカ 6.12
タシヤンツェ 6.10
パロ 6.04
トンサ 5.97
モンガル 5.79
ルンツェ 5.79
サムドラップジョンカル 5.70
ペマガツェル 5.61


西部が高く、東部、南部へ行くにつれて幸福度が低くなっています。
所得においては首都Thimphuが一番高いですが、幸福度が高いのはGasa,Haaなどの高山地帯。
そして、幸福度が比較的低いのがインド国境に近い南部の都市、Pema Gatshel, Samdrup Jongkhar地区。

町から山道を1時間歩かないとたどり着けないMarthang村
村に戻る途中の道で休憩~写真撮りますよーというと、ノリノリで手を振ってくれた。



先ほどの日本の都市別幸福度ランキングには、生活環境の項目に「持家率」が使われています。
この項目を追加することで、都会よりも田舎が当然有利になりますよね。
平均収入などは、逆に都会が有利になります。

どの指標を使うかが、幸福度に大きく影響する。
つまり、調査をする側の主観がはいってしまうのだ。

持家が幸せなのか?
アパートに住んでると不幸なのか?

それとも、おせっかいなくらい、近所の人から干渉を受ける人付き合いの濃い~コミュニティが幸せなのか?


それって人それぞれですよね?

・・・って、最初の結論に戻ります。
こんなに説明が長くなってしまうので、たいてい省略して「ひとそれぞれじゃないですか」
という答えで終わってしまうわけですが・・・ ^^



■廃村の危機にある農村のくらし

Morong村のDechen家についたのは夕方の5時でした。
薄暗いとうもろこし畑をひたすら歩く。
morong村のとうもろこし畑


畑の真ん中にある小屋には、部屋が3室。
1室はキッチン。ご飯は薪と竈で炊いている。トイレはありません。

ここは、農繁期のみ居住スペースとなる出小屋。
日本でも、かつて、畑のそばには簡易ベッドが置いてある集落もありました。
作物の収穫前後は、獣から守るため、寝ずの番をするのです。


家の玄関にはロープがずーっと奥のとうもろこし畑に続いていました。

そのロープはトウモロコシ畑に立てられた竹竿につながっています。
それは、夜、野獣にトウモロコシを食べられてしまわないように、音をたてて追い返すためにあるのです。


息子のDorji君が採れたてのトウモロコシを焼いてくれました。
例にもれず、バンチャン(地酒)がでてくる、でてくる!

7時には日も落ち、あたりは一瞬にして暗闇に包まれました。
電気はもちろんありません。

しーんと、静まり返った闇夜。
こんな静けさの中に身をおいたことがあったろうか・・・?

そんなことを思っていると、

「うほほほほーーーい!!うほおーおおお!!!!」

急に何とも言えない雄たけび声が!

はにかみながら、とうもろこしを分けてくれたDorji君です。

獣を追っ払うためなのだとか。
あのおとなしいDorji君がこんな大声を出せるとは!



夕方にみた竹竿が遠くの方で鳴っているのが聞こえる。
ロープは全部で3本あり、交代でこれを1時間毎に鳴らすのです。
寝れたものではありません。


夜なべ・・・とはことことで、畑を守るために一日中音をならしつづける・・・
この生活は、トウモロコシの収穫まで2か月続くといいます。

で、竹竿の効果のほどを聞いてみると、

「50%がいのししに食べられている。竹竿がなければ全滅しているだろう」
とのこと・・・。

2か月間寝ることなくいのししと戦い、得られるとうもろこしは半分・・・

幸せの村の日常は厳しいものです。

あさ、お粥を炊いてくれたDorji君。
幸せとは何か?聞いてみると、仕事をしていることが幸せなのだとか。
そんな彼はまだ16歳。

日本に生まれ育った私には、トウモロコシを育てるために2か月徹夜で番をするなんて大変に違いない・・・と思うものです。
でも、彼が幸せに思っているのは、家族一緒にこの仕事をしていられること。
家族で働くということは、日本にはあまりない日常かもしれません。
出稼ぎにいって、給料をもらうことが幸せなのか、家族一緒に食べるために働くのが幸せなのか。
人にはそれぞれの幸せのカタチがあるのでしょう。


"reliance on local wisdom, traditional farming methods, and freely available local materials"

ティンレイ首相の大事にする有機農業の効用。
それは、ないものを外国求めるのではなく、いまそこにあるものを活かすということ。それが有機農業のprincipleなのだと。




日本では蛇口から水が出るのが当たり前で、断水でもすれば市役所に苦情がいくかもしれない。
当たり前に思っていると薄れてしまう感謝のきもち。
 ブータンでは水は頻繁に断水するが、雨が降れば天からの恵みに感謝し、みなバケツを軒下に並べます。


雨が降ればバケツに水を貯め、洗車する

 食べ物をわけてもらっていることへの感謝。
生きていることへの感謝。


足るを知れば、充足度は高くなり、欲望が大きくなるほど充足度は小さくなる。
あるものに感謝し、在るがままに受け入れることが幸せの一歩なのではないでしょうか。

(つづく・・・)

==============================
関連記事

ブータンの山村集落へ手種(てだね)をたずねて・・・(1)おばあちゃんの知恵を学ぶ農村調査
ブータンの山村集落へ手種(てだね)をたずねて・・・(2)神様の贈り物―五穀豊穣と9つの種
ブータンの山村集落へ手種(てだね)をたずねて・・・(3)照葉樹林文化とブータンの農耕
ブータンの山村集落へ農と暮らしをたずねて・・・(4)伝統医術を学んだ少女
ブータンの山村集落へ農と暮らしをたずねて・・・(5)ミルクロード~牛乳のとおる道

村のじぃちゃん、ばぁちゃんたちと種会議(1)薦池大納言の黒鞘と白鞘の謎
村のじぃちゃん、ばぁちゃんたちと種会議(2)世屋高原「はなうた」さんの雑穀をたずねて
村のおばあちゃんたちと種会議(3)麦とソバ
ホームガーデンに見る植物民俗学(2)五木村の多様な焼畑のカタチと伝統的知識
ホームガーデンに見る植物民俗学(1)五木の赤大根を探しに熊本へ




にほんブログ村 ライフスタイルブログ 田舎暮らしへにほんブログ村 ライフスタイルブログ 半農生活へ

0 件のコメント :

コメントを投稿