2016年10月10日

植物と民俗:花梨

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屋敷林と果樹

民家のそばの平野にこんもりと盛り上がった森を見たことはありませんか?
それは、ヤシキリン(屋敷林)と言われるもので、季節風が通り抜ける北側には防風林が植えられました。東北ではイグネ、富山ではカイニョと呼ばれたりもします。

屋敷のまわりには、防風や防火のための木だけでなく、燃料となる樹、飢饉に備えて食べられる果樹も植えられました。柿、栗、そして、家の周りの垣根と、畑の境にはお茶の樹、日本海側ではポポーが植えられるおうちも多い。それから、和蠟燭の原料となるハゼも換金作物として中山間地域では勧奨されたようです。

ヤシキリンは地域によって多様な樹が植えられ、風土が育んで来た景観。
樹々のさえずりとともに目を覚まし、お庭になる木の実をそっといただく。
パーマカルチャーなんて言葉が流行る前から、里山の中で自然と受け継がれて来た知恵なんですね。


カリンの起源


前置きが長くなりました。
花梨もそんな常備果樹のひとつ。ほんのり甘い香りがするその樹は、田舎に行くとおうちのまわりに植えられていることがあります。

英語ではChinese quince、学名 Chaenomeles sinensis。
ちなみに、学名でsinensisとつくものは、ラテン語で中国産ということ。

その起源は古く、中国では、2000年前から薬用植物として屋敷に植えられていたそうです。李時珍の「本草綱目」には、「木瓜には咳止め、利尿作用、鎮痛作用がある」という記述があります。

日本に伝わったのは平安時代にさかのぼり、弘法大師が持ち帰ったとされています。
弘法大師が持ち帰ったとされる作物って、調べてみるとけっこうあるので本当かどうかはわかりませんが・・・。起源の古い植物を見ると、平安貴族もこうやってこの果樹を鑑賞したのかなあとつい想いを馳せ、不思議な気分になります。

とにかく、始めは薬用として中国から持ち込まれた花梨ですが、江戸時代には一般に広まっていたようです。

植物の起源をたどるとき、各地の方言を探していくととても面白いのですが、クワズナシ、ボケナシ、カリントーなどと呼ばれている地域もあるようです。たしかに、そのままじゃ食べられない。クワズ○○(クワズイモなど)とか、イヌ○○と呼ばれてるの植物があればたいがい食べられないです。

日本語で花梨とは梨の花と書きますが中国語では「木瓜」、つまり、木瓜と書いて「ボケ」とも読みますが、分類によるとカリンもバラ科ボケ属の一種と数えられることがあります。本草綱目では、ボケに似るが、榠楂木(カリン)の実は、大きくて黄色いとあります。
カリンの花(引用:神戸市立森林植物園HPより)

榠楂木、葉、花、實酷類木瓜,但比木瓜大而黃色。辨之惟看蒂間別有重蒂如乳者為木瓜,無此則榠楂也。可以進酒去痰。(「本草綱目」より引用 




カリンと民俗

ところで、花梨、別名クワズナシと称されるだけあって、生では堅いし渋いし、とてもたべられたもではありません。
でも、加熱すると、あら不思議。柔らかく甘くなるので不思議です。
中国の辞書にも、煮て食べろとあります。

漢方の属性で言うと、寒熱は平性、潤、収、五味は酸、渋。
砂糖漬けにして咳止めとして古くから重宝されてきました。

10月〜12月上旬頃、田舎の朝市にいくと売られていることも。
いくつかお部屋においておくだけでしばらくはよい香りが楽しめます。
その後は、ハチミツに漬けておくと長期間保存がきくので、常備薬としています。



民俗の知恵って、馬鹿にならないのですよ。

「可以進酒去痰」、古くから言われている民間療法なのですが、花梨には、抗酸化作用のあるビタミンCやタンニン、サポニンなどがふくまれている他、種に含まれるアミグダリンは煎じると咳止め作用がある成分に変わるということがわかってきています。

そもそも、薬は、マラリアのキニーネにしても、柳から生まれたアスピリンにしても、植物から成分を抽出されることが始まりでした。今は、石油などから科学的に作り出せるのだそうですが、そのヒントはやはり、植物にあると言います。
では、さらに時代を遡り、神農とよばれる伝説の老人が伝えたという民間療法は、いったいどうやって始まったのでしょうか。

植物と民間伝承、人が野に暮らし、生きてきた歴史の物語に想いを馳せる秋の夜長でした。


☆カリンの利用方法☆
ハチミツ漬け(砂糖漬け)、ジャム、薬酒

※ジャムにするにはかなり時間がかかります。
 やっぱり、漬け込みが簡単でおすすめかな。

☆参考文献☆
果物ナビ


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